記憶

 昔から勉強に対する記憶力には自信がないが、人の顔を覚えるのには自信があった。
少ししか会っていなかったり、たまたま見掛けた人でも記憶し、後日その人を遠くから見掛けては、あ、あの人だとすぐ気づく。
一緒にいる友人等にも、よく覚えているねー!と言われたものだ。

それが最近。
「んーあの人、あれ?誰だっけ。あれあれあれ・・・」
これが随分増えたことを心底嘆いている。
酷い時には、以前挨拶したことがあるということすら頭から抜け落ち、その人に「初めまして」と挨拶をして、会ったことがあると言われたり。
そういうことを人から自分にされるのは別にいいのだ。
私と前に会ったことなんて覚えてないだろうな~と基本的に思っているので、話しかける時には自分から名乗るし。
自分が人にしてしまうのが嫌だ。
しかも、昔はそんなことなく、むしろ人の顔を覚えるのは得意だったのに・・・

記憶力の衰え、と言うのだろう。
それは人の顔に限ったことではない。
昔観たという事実をすっかり忘れ、わくわくしながら映画を借りてきて、中盤にようやく、なーんか観たことある?と思い出すということがあり、愕然とした。
どんな映画でも、題名やパッケージを忘れることなんてなかった気がする。
レンタル屋で、あ、これ面白そう!と無邪気にDVDを手にした自分の姿を思い出し、情けなくなる。

私がしばらく飲み続けている、イチョウ葉エキスの効果は一体いつ現れてくれるのだろうか?



 悲しい知らせがあると、故人との数少ない思い出を頭から引っ張り出す。
しかし、上記のような有様だからか、極めて断片的なものになってしまう。
どうしてもっと、一挙一動を頭に留めなかったのだろうか、といつも思う。
なので、頭に残る数少ない個人の映像がスローモーションで再生される。
その映像の中では故人は生きている。
覚えてさえいれば、記憶の中に故人は生き続けるのだ。
覚えてさえいれば。

イチョウ葉エキスが効かないのなら、自力で何とかするしかない。