暖かいと書いた翌日は激寒。ころころ変わる春の天気。

「ダイエットしているの?」
昼におにぎりだけ食べている私を見て、通りかかった会社のミドルが、ニヤニヤ言った。

『全然してないです』

何で大見栄を張ったのか自分でも分からない。
娘も全然食べないんだよな~と呟きながらミドルは去っていった。
ダイエットには大いに関心があるけれど、おにぎりだけ食べていたのは、ダイエットではない・・・朝時間がなかっただけである。

何だか恥ずかしくなって、食べかけのおにぎりをしまいながら、せっかく人目につかないよう自分の机で食べていたのに、と恨めしく思う。
弁当はある一室で食べるように、と謎のお達しがあってから、弁当派はそこに出向くのだけれど、皆他の人が何を食べているかをじろじろ見ているのが、私は苦手。自分が食べているものにコメントまでされると、思わず聞こえない振りをしたくなってしまう。
かと言って毎日外食する甲斐性もないしで、私に残された最後の希望は公園なのだが、これも天気に左右されるし、少し遠いのが難点。
お昼は唯一の楽しみなのに。

 この前公園でお弁当を食べていた時、人に馴れた鳩がやってきて、良くないかな、とは思いつつ米粒をあげた。
すると、それを見ていた他の鳩が「オレにもよこしやがれ」とでも言うように、私めがけてやってくる。
ふと思った。
公園のベンチで一人ご飯を食べている女、しかも鳩に餌をやりながら。
自分が人に見られているとは思ってないが、もしかして相当寂しい絵面なのではないだろうか・・・?
そのような事と、このまま鳩達にたかられ続けたら困ったものだと思い、私はその鳩を無視した。

「ケッ!」と、思っただろうその鳩は、すぐ他の人の所に行った。
しかし、最初に来た鳩は、「こいつはご飯をくれる」と、頭にインプットしたのか、私の傍を離れない。
胸が痛んだが、私も人の目ってやつが気になるのよ、ごめんね・・・!と、無視。
その鳩も他の所へ行った。

去られると寂しくなる私。次に来た時はこれをあげようかな、等と考えてしまう。しかし鳩は、全く餌をあげる気配がない人達の所ばかりウロウロしていて一向にこちらに来ない。
『ちょっとは私の事を思い出してよ・・・!!』
いつしか私は、待つ女になっていた。

 ふと顔を上げると、近所に住んでいるらしきおばあさんが、OLらしき女性一人とサラリーマン二人が座っている四人がけのテーブル席に、相席させてくれと言いながら座っていた。
おばあさんはきっと誰かと話したいのであろう、先に座っていた人達に話しかけている。
「これ、さっき物産展で買ってね、美味しいのよ。食べてみて」、とお菓子が入った袋を差し出す。
礼も言わず、すごく面倒そうに菓子を取るその人達。
確かに食べ物を見知らぬ人からもらうのは抵抗あるよね、と思ったが、そのお菓子、たくさん入ったスナックとかではなく、一袋に4個とかしか入っていない大きな上等そうなお菓子。
何て気前がいいのおばあさん!と、私はそのおばあさんに釘付けになった。

しかしおばあさん、明らかに人選ミスである。
おばあさんの続くベシャリに、サラリーマン達の背中には「迷惑」という文字が浮かんでいるように見えるし、顔が確認できるOLは、不快感マックスな表情で、見ている私が思わず涙しそうであった。
さすが冷凍都市東京!TOKYO FREEZE!!
都会の冷たさを実感している私を置いて、おばあさんはある物を取り出し、くるっと反対を向いた。

ある物とはハーモニカである。
え?と思う間もなく、公園には颯爽とした音色が響いた。
おばあさんのハーモニカはうまかった。一通り吹いた後、おばあさんは少し照れくさそうに、サラリーマン達の方に向き直る。
気の利かない私だったとしても、「すごいですね、どれ位やってらっしゃるんですか?」位、きっと声をかけるであろう。
しかし、その人達は無言で弁当を食べている。
おばあさんは自分で話し出した。
聞き取れなかったが、ハーモニカについて何か言ってるようである。
これまた迷惑そうな顔で、ハハッとだけ言うOL。

この胸の痛みは何?私がこの世を憂いている時であった。
おばあさんがまたくるっと反対を向き、ハーモニカを吹き出した。
すると、公園にいた一人の子どもが走っておばあさんの前に来たではないか。
演奏に魅入る子ども。ハーモニカを吹くおばあさん。
演奏を止めたおばあさんに子どもが話しかける。
「それ何て言う曲ですか?」
おばあさんは嬉しそうに答えていた。

子どもって素晴らしい………!
一人胸が熱くなる私に、続くハーモニカの音色が染み渡るのであった。

その後も、違う子どもが来ておばあさんに話しかけていた。
まっすぐなその綺麗な心をいつまでも忘れないでね!

何様だよ、というようなことを子どもに思った後、鳩を待ち疲れた私は、会社に戻った。